Potion 〜魔法薬〜 その5 月は沈み、日が昇る。

少し離れた所にある建物は朝靄でかすんでいる。

少しずつ増えていく喧騒。

馬の嘶き。

馬車の木が軋む音。

大都市エクスヤードの1日は始まったばかりだ。

そんな大都市の割と平凡な老舗の宿屋の一室にて。

「えーと。今日は東部騎士団の支部に行くんだよな。」

「はいです。ここからだと10分くらいですよ。」

朝食を食べつつ今日の予定を話し合う。

とりあえずエクスヤードとヴィオレの家のほぼ中間にある

エクセレスという町へ向う予定だ。

正確にはエクセレスの前にある山脈の麓にある村へ・・・だが。

そして朝食を終え、宿をチェックアウトし東部騎士団支部へと向った。


「おはよう諸君。さっそくだが君達の護衛の私の部下を紹介しよう。」

「私はクルス・クレスと言います。

 レヴェリオン様の命によりユカナさん達の護衛を勤めさせていただきます。

 よろしくお願いします。」

クルスと名乗った男は身長は178p程。

背中に両刃の長剣を背負っている。

黒い短髪に黒い瞳をした二十歳前後の騎士だ。

「今日はエクセレス迄の途中にある大きな山脈の最も近くにある

 村まで行ってもらう事になる。

 馬車ではその山を越えることは出来ないからそれ以降は歩いてもらう。

 今からだと着くのは夜になるだろうから、少し急いで行ったほうがいいだろう。」

というわけで今は馬車の中にいる。

「それじゃあ自己紹介の続きでもしますか。」

「ですね。」

まずは俺から。

名前は冬樹ユカナだ。

向こうの世界の住人で、魔術とは違う氷系の変な力を使える。

防御くらいには使えると思う。

続いてヴィオレ。

「アレイスター派所属の魔術師ヴィオレ・メルクルディっていうです。

 炎と氷の魔術を得意としてます。」

「ああ、よろしくな。

 んー・・・どうも堅苦しいのは苦手でな。」

「どうぞどうぞ。楽にしていいですよ。」

「そうか、悪ぃな。

 それじゃ、改めて。」

こほんと軽く咳払いをしてから

「俺の名前はクルス・クレス。見ての通りの剣士だ。

 両手剣を使った剣術を得意としている。

 まぁ、隊長には敵わないけどな。」

頭をぼりぼり掻きながら苦笑。

「だけど、近接戦闘できるのがいないこのメンバーでなら役に立つと思うぜ。」

「頼りにしてます。」


山越えの為に、山脈へと続く道から一番近い所にある村で1泊する事になった。

翌日の早朝出発の為に早めに寝ようと思い、準備に取りかかろうとすると

クルスが部屋へと入ってきた。

「よう・・・って、もう寝るのかよ。」

「明日は早いからな。」

「その前にいいか。少し確認したいことがあってな。」

「まぁ、いいですけど。」

そう言うとナイフを持って着いて来るようにといい、部屋を出て行った。


「確認したい事って何なんだ?」

「お前の・・・というかそのナイフの能力についてだ。

 ヴィオレのは炎と氷の魔術ってだけで何となくはわかるが

 そのナイフの能力についてはさっぱりだからな。」

という訳なので実演してみせる。

まずは氷の盾。

直径1mくらいの盾を作り出す。

「これが基本的な能力かな。」

続いて氷のドームで覆って全方位から身を守る盾。

「範囲魔法とかからはこれでよく防ぐよ。」

「ふむ。」

そして3つめは氷の檻だ。

全方位を守る盾を離れた位置に出現させる。

「こうすれば逆に相手を捕まえることも出来る。

 これで全部だな。」

クルスは少し考えると

「攻撃系の技は無いのか?」

「ああ、残念ながら。」

「そうか・・・。

 じゃあ、離れた位置に全方位を守る盾を出しといてくれ。」

盾を作り出すとクルスは剣を上段から思い切り振り下ろした。

ガキィィィィィィン

「お。物理的な防御力もかなり高いな。

 一応本気だったんだが・・・。」

んで、彼の評価はというと

「そうだな。防御に特化している能力の中ではかなり防御力は高いと思う。

 物理・魔法共に守れる上に、使い方では相手を封じ込めることもできる。」

近接・物理攻撃はクルスが、魔法・間接攻撃はヴィオレが、援護・防御はユカナが。

「なかなかバランス良さそうじゃないか。

 これなら余程数的不利にならなければ負ける事はないだろ。」

だそうだ。

「さて、寝るのを邪魔して悪かったな。

 それじゃ寝るか。」

「ああ、おやすみ。」

そう言うと欠伸をしながら宿屋へと向って行った。

明日は山登りかと思うと気が重い。

今まで馬車で楽をしてきたツケなのかな・・・。

いやいやいや。

弱気になってはいけない。

まだ困難があるかもしれない。

気を抜くわけにはいかない。

・・・エクセレスからはまた馬車なのかな。


山登りは意外と楽だった。

一応きちんとした街道と言う事もあってか、道は割りと整備されていて

歩きやすかった。

頂上付近で一休みをして、下り坂へと向う。

遠くにはエクセレスの町並みが見える。

旅は順調だ。

いや、順調だった。

「アレイスター派所属ヴィオレ・メルクルディだな。」

少し離れた位置に突然現れた男。

「私はアガスティア派所属の魔術師、エドガー・ガロファーノ。

 ヴィオレ。お前の持つグラナートの書を渡してもらおう。

 断るのなら、容赦はしない。」

「私はそんなの持ってないです。だいたい・・・。」

「ふっ。常套句だな。

 ならば、力ずくで奪うまでだ!!」

エドガーと名乗る魔術師の周囲に魔法陣が展開される。

「黒き闇より生ぜし瘴気よ 我が剣となりて 切り伏せよ ノワールブルイヤール」

無数の闇の剣による斬撃の乱舞。

だが俺の全方位シールドには傷一つ付けられない。

攻撃力に関しては皆無だが、防御力に関してならクルスのお墨付きだ。

「ほう。私の魔術でも切れぬ障壁があるとはな。

 だが、魔術が全て物理的な攻撃だけだと思うなよ。」

「闇の歌 漆黒の海へと誘へ 永遠に シュラーフェン」

う・・・眠い。

意識の集中が切れてきて氷のシールドが薄くなっていく。

魔術に関する修行などは全くやっていないので、魔術抵抗力はゼロだ。

抗いたくともできぬ睡魔に身をゆだね、意識は途切れていった。

「さて。残るはお前達2人だ。」

「話は最後まで聞くです!」

「なんだ?

 素直に言うことを聞く気になったか?」

「グラナートの書は現在行方不明です。」

エドガーの表情が厳しくなる。

「どういう事だ?」

「グラナートの書は西方の国、アルヴァレス公国に安置されていましたが、

 現在公国は戦乱状態であることはご存知のはずです。」

「それは知っている。」

「でも、安置されていた図書館があった町は敵国に制圧されてます。

 その時にグラナートの書も持ち出され、以降は行方不明です。

 私の所属しているアレイスター派の魔術師も探している最中なのです。」

「・・・。」

「そして、私はグラナートの書の捜索はしてません。

 私は別の物を探しているです。」

「何だ?」

「シュライト石です。」

「それって年齢詐称薬の・・・。」

「はい。実は・・・。」


〜ヴィオレ説明中〜


「はははは!

 そーいう事か!

 いや、すまなかった。少し焦りすぎていたのかもしれんな。

 ふむ、そうだな。お詫びと言ってはなんだが、エクセレスまで送ってあげよう。」

「護衛ですか?

 それなら大丈夫ですよ。」

ちっちと人差し指を振って言う。

「送るんだ。言葉通りな。

 場所は適当な宿屋の前でいいな?」

そう、彼がいう送ると言うのは護衛ではなく転送と言うことだった。

白い魔法陣が展開する。

幾何学的な模様に読めない文字が空気中に次々と書き込まれていく。

視界が一瞬白一色に染まり、気がつくとエクセレスだった。



転送先の宿屋に泊まり、その翌日。

ヴィオレ宛に荷物が届いた。

中身はシュライト石だった。

送ってきたのはエドガーらしい。

後、エドガーの手紙。

『昨日は悪かったな。焦りすぎて盲目的になっていたようだ。

 倉庫を漁ってみたところシュライト石が一つだけ見つかった。

 今後シュライト石を使う予定はないからお前に送った。

 シュライト石は貴重だからな。大事に使ってくれよ。

 んじゃ、敵として出会わないよう祈ってるぜ。

                エドガー・ガロファーノ』



それから数日後。

楼憐館から歩いて30分くらいの所にある書店にて。

「ユカナ様。中華料理なんていかがでしょうか。」

「中華かー。最近食べてないなー。」

「なら、これを買っていきましょう。

 次は食材を買わなければいけませんね。」

「そうだな。」

昼前の10時。

私服の睡蓮と本屋に来たわけだが、料理の本が欲しかったようだ。

俺やヴィオレがなんとか石とやらを探している間、睡蓮はこちら側の世界の

料理を色々練習していたらしい。

中華か・・・。

久しぶりだし、今からちょっと楽しみだ。

そうそう。

睡蓮はヴィオレが調合した薬で元に戻ったようだ(肌年齢はほぼそのままで)。

今は普通な日常生活を謳歌している。

平和ってスバラシイ〜〜!!

でも変な事件は必ず起こる。

それが俺の体質なのか運命なのかディスティニーなのか・・・。

・・・いや。

今はその事を考えるのは止そう。

そうだ。

今考えるべきは・・・。

中華料理!(睡蓮お手製)




〜Fin〜