Potion 〜魔法薬〜 その4
「さぁ、好きなだけ食べてくれ。」
「はい。いただきます。」
「いただきますっ。」
ここはレヴェリオンさんが御贔屓にしている宿屋のチェーン店の一つ。
レヴェリオンさんはけっこう騎士団での位は高い方っぽいので
お金もそれなりにあると思う。
でも、彼曰く。
「豪華な宿よりも、小さくて小奇麗な宿の方が落ち着く。」
だそうだ。
内装は質素で落ち着いた感じ。
確かに居心地は良い。
そして、現在夕食中なんだけど、どれもが美味しい。
片っ端から平らげていく。
ヴィオレも俺に負けじと食べていく。
「そういえば、君達の目的を聞いていなかったな。
出来る範囲でなら協力しよう。」
ヴィオレと顔を見合わせる。
「まぁ、話しても問題ないよな。」
「そうですね。」
「ついでに自己紹介も。
俺の名前は冬樹ユカナ。知っての通りこの世界の住人ではないよ。
ここに来た目的は、ある魔法薬を作る材料を取りに来たんだ。」
「私はヴィオレ・メルクルディっていうです。
アレイスター派所属の魔術師です。
後はユカナさんの言うとおりです。」
「ふむ。その材料は何処にあるのかは見当ついているのか?」
「はい。ついてます。」
「というかヴィオレの家だしな。」
そう言うとレヴェリオンはそうかと言い少し考えてから
「遠いようなら一人か二人程護衛でもつけようか。
魔物の動きが最近活発になってきている傾向があるのだ。」
「どうする?」
考え込むヴィオレ。
2〜3分で結論に至ったようだ。
「護衛・・・つけてもらうことにしようと思っているです。」
「まぁ、その方が安心できるしな。」
俺たち2人だけでも火力はそれなりにはあるし、防御も俺の氷があればなんとかなるはず。
ただ、長期戦になるとヴィオレの魔力の総量が少ない為不利になる。
ここは魔力や謎の力に頼らない、純粋な物理攻撃に特化した剣士等がいると安心だ。
「ならば、私の部下を一人つけよう。
まだ若いが剣の腕はいいぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
その後はコーヒーを飲みつつ、適当に雑談をして自室に戻った。
翌日は7時ごろに出発、昼ちょい過ぎあたりにエクスヤード到着予定だ。
翌朝、宿屋からチェックアウト。
エクスヤードを目指す。
レヴェリオンさん持ちで馬車に乗ることとなった為、エクスヤードにはあっさり到着。
ヴィオレの家へ向かうにはもっと北上する事になる。
北の方へはヴィクトル街道を行くが、昼頃からでは宿のある場所へは少し遠すぎる
との事なのでエクスヤードでまた1泊する事となった。
「宿屋はこの地図の所へ行ってくれ。
支配人に私の名前を言ってくれ。」
「はい。色々とありがとうございました。」
「いやなに。これくらいどうって事はない。
明日は私のいる騎士団の支部へ来てくれ。」
「はい。わかりましたです。」
では、と言うとレヴェリオンは何処かへと行ってしまった。
時間はまだ昼を少し過ぎたところ。
宿屋へと向かうには少し早すぎる。
なので暇つぶしをしようと思うのだが、さてどうしたものか。
「あの、ユカナさん。」
「ちょっと行きたい所があるですが・・・。」
俺には特に行きたいところとかは無いしな。
「ん、じゃあ行こっか。」
行きたい所とは魔術に関した道具などが売っている店、魔導具店だった。
ヴィオレ御用達の店らしく、店に入ると店主らしき人がヴィオレの名前を呼びつつ歓迎している。
店の中には色とりどりの大きな塊の何かや粉末状の薬。
瓶に入っている液体、固体、ゲル状の物まである。
他には薬草の様なのもあれば、全くの用途不明な物まで様々な良く解らんのがたくさんだ。
ヴィオレは大きな小さな液体固体ゲル状の魔法に関したアイテムを吟味しながら選んでいた。
用途は分からないけど見ているだけで面白いのでけっこういい暇つぶしが出来るかも。
「あの、相談があるですが。」
「ん、相談に乗るよ。どうしたんだい?」
彼はヴィオレ御用達のマジックアイテム専門店の店主であり魔術師でもある。
「知っての通り、私は魔力総量が少ないです。
それをどうにかできないかと思っているです。」
彼はなるほどねと頷き、少し考えてから。
「今の所、解消手段は触媒を使って魔力の消費を抑える。
体に負荷を掛けて魔力の消費を抑える。
くらいがメジャーといばそうなるかな。だけど根本的解決にはならない。」
でもねと続ける。
「かなりの希少品であるあれを使えば一応の解決はできる。」
「あれって何ですか?」
「滅多に取れない自然的に魔力が付加されたサファイア。
それを使用した外的に魔力を供給できる特殊な魔道具だよ。」
「で、でも。それってすごく高価だと・・・。」
魔力の付いたサファイアがまず高価。
それを取り付けた魔道具自体も製作に高い技術が要求されているため高価。
数が少ない為高価。
結果、高価になる。
「君の作る魔法薬は私の店でも最も売れ筋のいい商品の一つだからね。
それに、その魔道具だけど何年も店にあるからな。すでに置物だよ。
私は使わないし、買う人がいないのに置いておくだけでは作った人にも道具にも
悪いし、何より必要としている人がいるのに使わせないなんてもっての他だ。
遠まわしな言い方になってしまったな。
簡単に言うと君にそれをあげよう。」
「い、いいんですか?」
「実を言うとね。そろそろ処分してしまおうか悩んでいたんだ。
ま、捨てずにすんで良かったよ。」
「有難うございますです。」
太陽は西の空へと傾き空が赤と橙のグラデーションに彩られている。
「ふー。思ったより時間経ったなー。」
「そうですね。そろそろ宿に行きましょうか。」
宿屋へ向かうと、受付とかのあるロビーに一人の兵士が立っていた。
彼が俺たちを見つけるとこちらへと歩いてきた。
「あなた方がユカナ様とヴィオレ様ですね?」
と聞いてきた。
そうだと答えると。
「レヴェリオン様から呼んでくるよう言われましてね。
夕食を一緒に取らないか・・・との事です。」
向かった先はエクスヤードの高級住宅街・・・に見える家々のなかの1件。
レヴェリオンの家だ。
外門を通り、中庭を通り、大きな玄関に入る。
すごいとは思うけれど慣れているので、こういう大きな屋敷に入るのが
初めての人の様には驚かない。
それでも少し緊張はするけどね。
執事に案内されて食堂へと行く。
「よく来てくれた。」
「いえ。・・・。」
テーブルの上にあるのはカレーだった。
こちらの世界に来てカレーは一度も見たことが無かったのだが。
「ん?カレーは嫌いか?」
「そんなことは無いですよ。むしろ好きです。」
「こちらの世界でもカレーがあるのか・・・と考えているのかな?」
心の内を見透かされたのだろうか。
まさしくその通りだった。
「この世界ではカレーは貴重な物であると同時に、食べられている地域も少ないのだ。
だから、こちらの世界でカレーを見ることは少ないだろう。」
と言う事らしい。
なので、じっくりゆっくり味わって頂く事にする。
・・・。
・・・・・・。
「ごちそうさまでした。」
「味の方はどうだったかな?」
「とても美味しかったです。」
「そうか、それはよかった。」
夕食を食べ終わり、宿へと戻ることにする。
「この辺は物騒では無いとは思うが念には念をだ。
気をつけて戻るようにな。」
「はい。ではお邪魔しましたです。」
「ああ、ではまた明日な。」
レヴェリオンさんの家を出る。
「なんかこちらの世界に来てすぐの時とは比較にならないほど楽なんだけど。」
「そうですねー。風向きが追い風になってるですよ。」
「このまま追い風のままだといいんだけどな。」
「大丈夫ですよ。私達なら、きっとね・・・。」
空には星が煌いている。
夜空には星が、向こうもこっちも変らない。
太陽もあれば月もある。
近いようで遠いこの世界の大都市で。
奇妙な人々と度々出会う普通の青年と魔法使いの少女の夜は更けていく。
〜Fin〜