異世界での冒険者 (上)
今、俺と水崎さんがいるのは何か大きな乗り物の中にある倉庫らしい。
その大きな乗り物っていうのは、何かと考えてみる。
「ねぇ。」
水崎さんが話しかけてきた。
「もしかしてあれって、土星じゃないのかな?」
まっさかぁ〜。
そんなことあるわけ無いだろ〜、と思いつつ指を指したところにある窓から外を見てみる。
おー。
大きな斑点がついた分厚い大気に、小惑星や氷塊でできている見事なリングが見える。
土星だとは言い切れないが、俺の知識であのような星は土星以外には考えられない。
と、なると〜・・・だ。
この大きな乗り物は惑星間の航行が可能な宇宙船、ということになる。
まぁ、過去においてこのようなことを可能にするすごいものを発明した人がこの世界には
いたのだろう。
例えば船体の構造や推進力をどうするか、推進力を維持するためのエネルギー源の新開発に
重力を制御するための装置等など。
恐ろしくSFチックだが、そう考えざるを得ない。
さてと。
とりあえずどうするべきか。
ここはおとなしくしていて、どこか宇宙ステーションだかに着いたらこっそり船から降りる
のが、最良の行動方針だと思う。
水崎さんにこのことを伝えると、非難時に使う小型の脱出艇があるかもしれないから
それを使ったらどうかと言われた。
その後何処に行ったらいいのか分からない。
その事を水崎さんに言うと、うーんと唸り小さく首を傾げて考え込みそのまま寝てしまった。
ふむ。
水崎さんは意外と神経が太いのか?
こんな所で眠れるとは。
それとも俺を信頼しているからか?
・・・。
変に期待するのはよそう。
俺は起きていないとな。
誰か来た時に守ってあげなければ。
と、早速誰か来たようだ。
もし、宇宙海賊のようなものがこの世界にいるとしたら、この船が海賊船で無いように。
倉庫に入ってきた人が海賊の一味で無いように願おう。
少し水崎さんに近づいて、息を潜める。
倉庫に入ってきた人は懐中電灯のようなもので辺りを照らしながら近づいてくる。
そして、コンテナの角からそいつが現れた。
が、まだ見えてないようだ。
とうとう懐中電灯が俺らに向けられた。
そして第一声
「・・・・・・お前ら、何やっているんだ?」
「すみません。食事させていただいて。」
「お腹空いてたから。ありがとうございます。」
ここはステインの個室。
テーブルの上にはステインが作った手料理が載っている。
「まぁ、別にかまわないけどさ。それよりも運がよかったな。見つけたのが俺でなければ
今頃、どこか狭い部屋に監禁されてたかもしれない。」
いや、本当にその通りだ。
初対面の人に自分は異世界から来たと言って信じてもらえるだろうか。
否、ほとんどの人は何言ってるんだコイツは、と思うだろう。
だが、彼は全てを信じたわけではないと思うが、悪意のある侵入者ではないことは
解ってくれたようだ。
おかげで、いまこうして食事をしているのだが。
「とりあえず自己紹介をしよう。この世界については後で教えてやるからさ。」
俺も水崎さんもその意見に賛成。
親睦を深めるには、まずは自己紹介をしてからだな。
深まるかどうかは別問題だが。
「私の名前は水崎鈴。高校1年生です。えーと、趣味は〜〜。」
まずは水崎さんから。
そして次にステインと名乗る男。
「俺はステイン・ユーティス。地球連邦所属艦『AMLT−48』機体名シエラの
貨物管理責任者だ。艦長じゃないからな。趣味は・・・」
突然揺れた。幸い料理は無事だったがお茶の入ったコップが倒れてしまった。
揺れはすぐに収まった。
「ちょっと用事が出来た。お前たちはここで待っててくれ。出来るだけ早く戻るから。」
「え・・・あ、ああ解った。」
そう言うとステインは部屋から走り去っていった。
「どうしたんだろうね。」
「分からない。悪い出来事じゃないといいな。」
「そうだね。」
ステインは第2艦橋へ向かった。
そこにある自分の席に座ると、コンソールを起動し通信回線を開いて問いかけた。
「艦長。何かあったんですか?」
艦長と呼ばれた人物は、通信回線越しにこう答えた。
「なに、心配する事は無い。土星のリングの氷塊がぶつかっただけだ。
空の倉庫が一つ気密が破られたがどうってことも無い。ただ・・・」
「ただ?」
「先ほどの衝撃で機関部に少しだけ被害が出たようだから、この近辺で一番近い
宇宙港で点検及び修理をすることにした。」
「そうですか。それでは。」
そう言って通信を切った。
戻ってきたステインにどういうことか聴いてみた。
こんなに技術力が発達しているんだから、宇宙船同士での戦闘もあるのだろう。
でも、今回の揺れが宇宙船からの攻撃でなくて良かったよ。
戦闘艦に輸送艦で勝てるかっての。
で、次が本題だ。
この世界はどのような世界なのか。
「あー、簡単に言うと3つの勢力に分かれて戦争中だ。」
「・・・戦争中ですか。」
なんとなく嫌な予感がする。
俺が乗っている輸送艦は何か重大な物を輸送中なのではないだろうか。
「で、3つの勢力ってのは、1つ目が地球連邦。俺の所属がそうだな。
2つ目がジュノ・ライオ公国。元は小さな武器製造会社がいつのまにやら軍事国家
に変わっていやがった。3つ目はミストリア連邦ていってな、中立的な場所に
いるんだよな。」
「つまり、大々的に戦っているのが地球連邦とジュノってことか。」
「ああ。地球連邦はやってないがジュノはミストリアにも攻めたことがあるらしい。」
「それで、ミストリアはどうしたんだ?」
「それがな、攻撃しにミストリア領に入ってターゲットに向けて進んでたはずなのに
いつの間にか進行方向が180°変わっていて、燃料の都合上断念したとか。」
地球連邦の推測によると、ミストリアは時空間に関する技術が発達している。
と、ステインは言って大雑把な説明は終わった。
うーん。
SFチックに磨きが掛かったようだ。
「それで、私たちはこれからどうしたらいいんでしょうか。」
聞きたかった事その2だな。
「ん〜と、この後宇宙港で点検・整備をすることになった。その時に艦長に相談してみる。」
「わかりました。」
その後は、隣りに空き部屋があるからそこで待機することになった。
ちなみに、今度この世界にいられるのは2週間近くある。
でも、2週間にいっぱいを楽しく過ごせるかどうかは微妙だ。
最悪、宇宙船と共に宇宙の塵になる可能性も・・・。
止めておこう。
こんな事を考えるのは。
とりあえず、疲れたから寝る事にしよう。
水崎さんも寝てることだし。
ふぅ、おやすみ・・・。
俺たちが目を覚ましたときには、いくつかの問題が解決していた。
まず、この輸送船のことだが予定通り点検・整備が終わり順調に航行中らしい。
もう一つは、今後の俺らのことについてだ。
ステインが艦長に説明した所、笑いながら居候OKしたそうだ。
なんというか、・・・ありがたい。
そのかわりに条件がある。
積荷の整理とかを手伝うこと。
ただ、この世界に来たばかりの俺らにどれだけの事ができるのかはわからないが。
ついでに、制服も着用しろとのこと。
今の時間は標準宇宙時間で7時。
ちょうど朝食の時間だな。
これから生活を共にする貨物管理部のみんなに挨拶をするべく、食堂へ向かう。
挨拶は簡単にすました。
その後はみんなと話しながら朝食をとり、早速仕事へと向かう。
(結局あの揺れで食事にはそれほど手をつけられなかった。)
どんなことをやるのか、難しいのだろうか。
等と考えているうちに仕事場に着いた。
青く透き通っている薄い板を手渡された。
その板には何か文字と記号が書かれている。
貨物管理部の一人、フェズの説明によると表の右側に積荷の名前、左側が管理する時に使う番号
らしい。
青い板に書かれているチェックリストと同じ物があれば、その横にペケ印を付けていく。
ついでに、コンテナに大きな破損が無いかも調べる。
後はこれを繰り返していくだけ。
簡単でよかった。
もしかしたら、慣れない特殊な機械を使って色々やるものだと思っていた。
2時間ほどで仕事が終わると、次にまたチェックするまでの間は暇になる。
次回のチェックは3日後だ。
だけど、この世界には見慣れないものがたくさんあって退屈しない。
初めてチェックしてから次が2回目となるがこれが最後だ。
いよいよ地球連邦本部がある地球に到着するからだ。
「さてと。これからいよいよ地球に着くわけだが今回で最後の仕事だ。」
「積荷を降ろすんですね。」
「そうだ。といっても専門的なことは俺たちがやる。お前たちはコンベアの設置が終わったら
コンテナを載せていくだけでいい。」
「了解。」
今のところあの隕石騒ぎ以外特に問題は起きていない。
まったくこの先どうなるかわからないが、この世界での地球がどのような姿をしているのか。
楽しみだ。
「とりあえず着くまで4・5時間はある。アスペラでもやろうぜ。」
「「アスペラ?」」
聞きなれない言葉をきいて首を傾げる。
俺より異世界探検をしてきた水崎さんもわからない様だ。
「ああ、そういえば異世界から来たんだっけな。ルール知ってるわけないか。
いいか、アスペラってのはな・・・。」
≪まもなく本艦は地球に到着する。各自用事とか済ませて置くように。≫
自由時間終了の合図である放送が流れた。
「あー・・・。」
「もう着いちゃうんですか〜〜。」
「まだルールの説明しか聞いてないのに・・・。」
そう、結局俺たちはアスペラのルールの説明を受けることしかできなかったのだ。
まぁ、仕方が無い。
「じゃあ、倉庫に行くか。これがこの艦での最後の仕事だな。」
「そうなんですか?」
「ああ。長期休暇をとっていてね。1年くらい休むのさ。」
さすがに我が耳を疑ったね。
1年・・・って何?
俺たちのいた世界とは違って、休みの長さも行動範囲の距離も何もかもが
スケールがデカイ。
正直言うと、羨ましい・・・。
「休暇の後は、恐らく別の船に配属されるだろうな。」
「ふーん。」
「いつまでここにいてもしょうがない。さっさと仕事やって船を降りよう。」
「そうですね。」
それからは忙しかった。
地球の宇宙港に着くまでに、積荷の最終チェックをする。
ついたら、荷物を全て降ろして規定の場所まで移動させる。
その後、宇宙港にいる荷物に関する責任者に報告してやっと終わり。
今は、職員に宛がわれた小型艇でステインの家のある所に一番近い空港に向かって
いる最中だ。
それにしても本当にスゴイ。
俺たちのいた世界では、宇宙に行く事だけでも大変なのに、こちらではそれが普通だ。
それが普通の世界なんだと言ってしまえば、それでおしまいだけど。
そして、特殊なガラスのような物の向こうに見えてきたのは、雲よりも高いタワーを
中心に広がる大都市の夜景だ。
超高層ビルが無数に立ち並び、ビルとビルの間は通路がある。
通路といっても、歩道橋のようなものではなく、小さい公園や池などがある広い道だ。
ビルの隙間や上空には光の線が無数に敷いてあり、それにそってこの世界での車が走り
回っている。
元いた世界では、大抵の未来は全体的に暗い感じのものが多いと思う。
だけど、この世界は違う。
未来ではないけど、多くのSF作品で描かれている物とは正反対な世界だ。
デパートと思わしき物の近くの通路は人々で賑わい、公園ではのんびりと話したり寝転
んだりしていたりと、思い思いにすごしているようだ。
「どうする?行くあてが無いなら俺の家に来るか?寝床と飯くらいなら用意してやれるが。」
断るなどという答えは存在しない。
今のところ、ステインがいないと右も左もわからなくなるだろう。
そして、ステインの家に来て数日が経った。
俺と水崎さんはお留守番。
ステインは用事があって出掛けていった。
ここで重要な事に気がついた。
こちらの世界に滞在できるのはいつまでか、ということだ。
水崎さんに聞くと、顔から血の気が引いていった。
「ど、どうしよう。あと4日しかないよ!!」
げ、これはまずい。
とにかく、ステインが帰ってきたら相談してみよう。
最悪の事を考えると、俺たちはこの世界に取り残される事になるかもしれない。
なんとしてでもそれだけは阻止したい。
ああ、ステインさん。早く帰ってきてくれ〜〜!!