冷たい風が窓から入ってくる。

カーテンが寂しげに揺れる。

木々は葉を落とし、空は果てしなく青い。

やがて、空には雲がかかってきた。

太陽の陰になり、その雲は灰色に見える。

厚く垂れ込めた雲は冬の精の住処なのだろうか。

何処からとも無く雪の結晶が舞い散る。


終業式の帰り道。

初雪の降る中に人影を見つけた。

人気の無い公園の中にひっそりと佇んでいる。

青と白を基調とした服を着ている彼女の背には透明の翼。

青みがかかった銀髪は肩口で揃えられている。

ちょっと驚き顔の俺に気がつくと微笑を残し消えていった。

初雪のなか、俺はしばらくぼーっと突っ立っていた。


冬休み初日。

昨日から降り続いた雪が積もっていた。

小学生の歓声。

その次には笑い声。

雪合戦でもやっているのだろう。

ベッドから体を起こす。

まだ眠っている体は冬風により起こされた。

昨日の晩。

空気の入れ替えをするために窓を開けて、

ベッドに寝転びながら漫画を読んでいる内に眠ってしまったらしい。

幸いな事に寒気やだるさは感じられないので風邪は引いてないようだ。

朝食を終え、2階の自室に戻ってきた。

理由は謎だが、今年の冬休みには宿題は出されなかった。

なのでやる事がない。

かといって部屋でぼーっとしてるのも何か勿体ない。

仕方が無いのでコンビニに温かい飲み物でも買いに行こうか。

本当はすぐ近くに自販機があるけど年中「つめた〜い」しか

売っていないので行く気にならない。

財布の残金を確かめたらポケットに突っ込む。

ジャンバーを着て出かける。

玄関を出ると待ってましたと言う様に冷たい風が吹く。

まだ誰も歩いていない新雪を踏みしめて街路を行く。

しばらく歩くと信号機がある。

その信号は着くたびに青になる。

ちょうど良いじゃないかと思うなかれ。

距離的に立ち止まって休みたいかなと思っているのに、

赤が青に変わってしまうので歩かざるをえないのだ。

だけど、珍しいことに今日は赤信号だった。

信号を見たときは青が点滅していた。

1分、家を出るのが早かったら青信号だっただろう。

立ち止まり、ふと思い出した。

今日はとある漫画の最新巻の発売日だった。

真っ直ぐ行けばコンビニに着くが、進路を変更しよう。

目の前の信号を渡ったら直進せずに右方向に行こう。

さすれば、駅前のちょっと大きめな通りに出られる。

ただ、その本は駅前の本屋には売っていないので

JRに乗ってもうちょい遠くに行く予定だ。

うん、そうしよう。

いつの間にか雪がちらつく空を向いていた。

視線を元に戻すとちょうど信号が赤から青に変わるところだった。

横断歩道を渡り、右折するためにまた赤信号を待つ。

何気なく右の方を見る。

遠くからはバスが2台走ってくるのが見えた。

そして、視線を戻すと彼女はそこにいた。

さっきよりも少しだけ強く降る雪に手をかざしている。

今年の雪の出来具合を確かめているようだ。

何故なら確証はないけれど、おそらく彼女は雪の精だ。

俺に気がつくとかざしていた手を小さく俺に振った。

バスが雪煙を上げながら通過した。

バスが通過し、雪煙が晴れるとそこには誰もいなかった。

いつの間にか横には数人信号待ちの人がいるけれど、

俺のほかに気づいたような人は見受けられない。

なぜ、俺にしか姿を見せないのだろうか。

何か理由でもあるのだろうか。

それとも、それは考えすぎ?

それとも、それはただの俺の傲慢?


駅前に着いた。

時間が時間だけに俺みたいな高校生はいないようだ。

気にせずにJRの駅へと向かう。

3駅向こうまで行く。

切符の料金は290円か。

往復で580円。

微妙に痛い。

風に吹かれて雪がホームまで入ってくる。

ちょっと遅めの通勤のサラリーマンが数人いるホーム。

両手をポケットに入れて空を一望しため息一つ。

最初はコンビニに行く予定がいつの間にか遠出になっている。

もしかしたら、彼女を見るために?

・・・それもいいかもしれないな。

もし、本当に雪の精なんてのがいたら凄いとは思うけれど。

まぁ、どっちにしろ暇つぶしに変わりはないけれど。

快速の電車がホームに入ってくる。

下車する人は無し。

座席には座らず、ドアの近くに寄りかかる。

窓の外は相変わらず雪だ。

雪の降る角度が急になる。

そして、2つ目の駅に到着した。

人が降りていく。

何とは無しに座席の方を覗いてみると、数人しかいない。

俺が乗ってから2つ目のこの駅でほとんど降りたようだった。

通勤時間ともいえないこの時間帯。

それにしても人が少なすぎるような気がするけど。

そんな日もあるか。

ホームには人がいなくなった。

みんな階段を下りて、改札を出たに違いない。

そうこうする内に電車が動き出した。

いつもなら、早く目的地に着かないのかと、

やきもきしている所だがそうでもない。

人がいないところで落ち着いて電車に乗っているのも

悪くないと思った。

だが、それはすぐに打ち壊される。

3つ目の駅に着いたのだ。

ホームにはこの電車に乗るための列が出来ている。

かなり混雑している。

さっきの静かな時間が嘘みたいだ。

人の流れに沿って進み、改札を出て駅前の広場に出た。

そこから向かいにある大きなデパートの7階を目指す。

歩き出そうとすると、前方に見覚えのあるものが。

青と白の服と翼。

青みがかった銀髪の少女は紛れもなく例の彼女だった。

周りの人は気づかずに、触れずに。

俺のほうを見ている?

彼女は俺のほうへと歩いてきて一言。

「おはよう。ん?こんにちは・・・かな?」

そう言うと消えた。

こんな微妙な時間だからな。

だけど、おはようには遅い気がするからこんにちは

の方が適切だと思う。

いや、そんな事はどうでもいい。

彼女は明らかに俺に向かって言った。

周囲には俺のほかにもたくさん人がいるのに。

なぜ、俺に?


その後は順調だった。

その店の最後の1冊だった目当ての代物を購入。

喫茶店でコーヒーを1杯飲んでからJRで帰路に着く。

そして、近道にと公園を横切る。

その中ほどに、道の真ん中に彼女はいた。

いつの間にか雪は激しさを増し、深々と降っている。

彼女が手を差し出す。

俺の頭にもジャンバーにも雪は降り積もっているのに、

彼女には全く雪はついていないようだ。

そう考えている間も彼女は俺に手を差し出し続けている。

俺は少し迷った挙句、手を取ることにした。

今まで見せてくれた、とりわけ駅前の広場で見せてくれた

あの表情に悪意は感じられなかった。

手と手が触れ合う。

ひんやりと彼女の手は冷たかった。

手のほうを見ていた顔を彼女の方へ戻した。

彼女は俺に笑いかけるとこう言った。

「ありがとう・・・。お礼にいい物を見せてあげる。」

辺りが一瞬にして白い閃光につつまれて、俺は思わず目を閉じた。

・・・

・・・・・・

「ん、ここは・・・?」

そこは雪と氷で出来た城?

「そう。ここは雪の精の城。

 雪というより冬かな。」

彼女に連れられて城をどんどん上っていく。

そして、最上階のバルコニーに着いた。

雪が舞い散るのに空には星が散りばめられている。

眼下には雪で造られた家々に蝋燭の灯火が揺れている。

正面には雪化粧を施した山が連なり、オーロラも見える。

そこは紛れもない、冬の精の国だった。

俺はその景色にしばし魅入っていた。


冬休みも終わり、雪は溶けて消えた。

木々にはつぼみがついていて大きく膨らんでいる。

春の気配を感じさせる早朝。

理由はないが早起きをしてみた。

今日は土曜日なので学校は休み。

いつもなら昼近くまで寝ているところだが、たまにはいいかと思う。

ドアの近くのタンスから服を引っ張り出していると、

背後から涼しい風が吹いてきた。

振り向くと冬の精が立っていた。

「もうすぐ春ですね。」

そう言う彼女は少しさみしそうだ。

その一言で俺はわかった。

「今年の冬には会えるさ。」

そう言うと彼女は微笑んだ。

彼女は後ろ向きにふわりと飛んで、涼しい風の入ってくる

窓から出て行った。

そして、俺の見守る中で蒼天の空へと溶けるように消えていった。

俺の手には何かが握られていた。

それは水晶だった。

うっすらと青い水晶はひんやりと冷たかった。

それは、冬の精の残していったプレゼントなのかもしれない。




     〜Fin〜